その先にあるもの
下記は、世界における「経済の力」、その力学の話です。アメリカがチャイナに経済制裁を加え、チャイナが困窮するように仕向けた中で、予想通りチャイナは内向きにシフトを変え「ツーワールド(二つの世界)」へ向かいつつあります。お互いが鬩ぎあい、いづれ衝突するでしょう。引力にも似た話です。所詮、強いものが勝つのが現世の世界ですから、記事にあるようにチャイナは好戦的になるでしょうし、好戦的な国とお付き合いする国に対しアメリカは容赦しないようになるでしょう。つまり、チャイナへ進出している企業は撤退かチャイナの企業として残るのか踏み絵を踏まされる時期が来ます。こういうことは、正しい歴史を見れば明らかで、正誤の問題でもなく、正義の問題でもないのです。
世界の経済戦争激化、軍事衝突より危険な場合も
バイデン氏はトランプ氏と同様に経済制裁を利用しているが、制裁の効果は薄れつつある
――筆者のグレッグ・イップはWSJ経済担当チーフコメンテーター
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アフガニスタン駐留米軍の最後の兵士が現場を去るや否や、ジョー・バイデン米大統領は軍事以外の方法によるタリバンへの圧力を継続すると約束した。特に経済的手段を使うという。それ以来、バイデン氏はタリバンへの制裁を維持しているが、制裁は援助に依存するアフガン経済を危機に陥らせる恐れがある。
これは、米国と世界が好む争いの手法が軍事戦争から経済戦争へと移行していることを示す最新の事例だ。米国はドナルド・トランプ前大統領の下で、年平均1000以上の人物・組織を制裁対象とした。米金融システムへのアクセスを絶つという手法がしばしば用いられた。ギブソン・ダン・クラッチャー法律事務所によれば、この制裁対象の数は、それ以前の16年間の平均の倍以上に相当する。
バイデン氏は制裁措置の利用を見直すと約束しているが、現政権の制裁発動ペースはトランプ政権時代に匹敵する勢いだ。技術を駆使して世界の制裁措置を追跡しているキャステラム・AIによれば、バイデン氏は人権侵害・選挙介入・麻薬取引などを理由として13カ国に制裁を科している。
コーネル大学のニコラス・マルダー氏による刊行予定の著書「The Economic Weapon: The Rise of Sanctions as a Tool of Modern War(経済兵器:新たな戦争手段として台頭する制裁措置)」によれば、現代の経済戦争のルーツは、1世紀前に国際連盟規約に制裁の規定が盛り込まれた時にまでさかのぼる。当時のウッドロー・ウィルソン米大統領は「この経済上の平和的で静かで破壊的な方策を用いれば、軍事行動の必要はなくなる」と宣言した。国際連盟が消滅しても制裁規定は国際連合に引き継がれた。マルダー氏は経済制裁について、「リベラルな国際主義が20世紀に生み出した革新のうち、最も長命なものの一つだ」と書いている。
制裁措置が現在好まれている理由は、軍事紛争、とりわけ核保有国間の紛争を避けられるということだけではない。グローバル化で圧力をかけ得る対象が増えたことや、中国の台頭もその要因になっている。中国が米国に及ぼしている脅威は、主として軍事的ではなく経済的なものだ。
制裁は今やボイコットを超え、一部の中国企業との取引を米商務省が禁じるといった輸出管理にまで広がっている。オバマ政権時代に財務省に勤務し、現在ギブソン・ダン・クラッチャーのパートナーを務めるアダム・スミス氏は、「トランプ氏は私が見たこともない方法で商務省の力を強めた」と話す。
米国は、小国だけでなく大国に対しても制裁を適用することが増えている。自らも経済的な武器を使うロシアや中国などが対象だ。中国は経済的な威嚇行為の実践において世界で最も熟達しているかもしれない。ボイコットのほか、自国は正式には制裁と呼ばない輸入制限を課すことで、韓国やオーストラリアといった貿易相手国に頻繁に打撃を与えている。中国は正式な制裁も科している。キャステラム・AIの共同創設者ピーター・ピアテツキー氏によると、「悪意を持ってうそを広めた」など、しばしば曖昧な敵対的行為を理由にして、他国の下級当局者やその友人、家族に制裁を科すという。「それは純然たる脅迫だ」と同氏は述べる。
しかし、政府が経済戦争を行うことの容易さは、その深刻な欠点を覆い隠す可能性がある。制裁は対象国の人々に大きな苦難をもたらし得る。マルダー氏は、経済戦争は戦争であることに変わりなく、軍事衝突よりも致命的な影響を及ぼすことが多いと述べている。制裁によって外国からの資金や公的支援を受け取れないアフガニスタンは、経済的な混乱に直面している。
経済制裁の実績は、よく言ってもまちまちだ。(米国の制裁指定の約4分の1を占める)麻薬の違法取引を理由とした制裁は実際、悪人の動きを止めることが多い。しかし、政権を標的にした制裁が政権の行動を変えることはほとんどなく、政権そのものを変える可能性はさらに低い。それはキューバや北朝鮮、ベネズエラを見れば分かる。中国の経済攻撃は、豪州政府が新型コロナの発生源に関する調査を要求するのを阻止できなかったが、その国民に強い反中感情を生じさせた。制裁が成功しても、その効果は一時的であることが多い。イランは、制裁解除につながった合意をトランプ政権が撤回すると、ウラン濃縮を再開した。米国は2016年、文民統治に戻った見返りとしてミャンマーに対する制裁を解除したが、ミャンマー軍は今年になって再び権力を掌握した。
もちろん制裁措置の成功は、それによって制止できた行為という形を取ることもあるため、評価するのは難しい。米シンクタンク「大西洋評議会」のジュリア・フリードランダー氏は、ロシアに対する制裁は同国をクリミアから撤退させることにはならなかったが、ウクライナへの本格的な侵攻を押しとどめた可能性があると指摘した。米財務省がシリアの航空燃料の供給業者に科した制裁措置は、バッシャール・アサド大統領が自国民に対する空爆を行う能力を低下させたという。フリードランダー氏は当時、財務省に勤務していた。
経済制裁の最大のリスクは、発動するケースが増えるにつれて効果が低下し、逆効果になる可能性もあることだ。米国と同盟諸国がある政権との貿易・金融関係を縮小すればするほど、その影響力は弱くなる。マルダー氏によれば、1930年代にイタリアのファシスト政権のエチオピア侵攻に対して実施された制裁は、同国の冒険主義を弱めた可能性がある。しかし、ナチス・ドイツや大日本帝国に対する制裁は、自給自足を目指す動きを加速させ、近隣諸国の侵略につながった。同氏は「制裁措置は政治的・経済的分裂を食い止めるどころか、むしろ加速させた」と指摘している。
今も似たような力が作用している。保護貿易主義や新型コロナウイルスと同様に、経済戦争は国際的な統合を阻害し、自給自足を目指す各国の動きを拡大させる。米国が誰かを罰するために国際金融上のドルの重要性を利用すれば、その都度、代替手段を探そうとする世界の動きが活発化する。中国に対する米国の禁輸措置は、主要技術の自給自足という中国の長年の目標の下に民間・公的セクターを結集させることになった。米国は、そうした制裁が長期的には中国という敵を弱体化させると信じているが、中国はより好戦的になるかもしれない。
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