車輪付きスマホ

車はいずれ「車輪がついたスマホ」になるんですって。世も末です。

古い話になりますが、キャブレターがインジェクションになりエンジンの鼓動が薄まりました。エアクリーナーが鳴る音も影を潜め面白さが半減。ただ、故障は減りました。今はマニュアル・トランスミッションが消滅しつつあります。オートマも年々賢くなり、今や8速とか珍しくなくなりクラッチを踏む行為の意味など無くなりました。車は進化しクダラナイ乗り物になっています。ボクはどうやら化石世代のようです。



アップルカーと従来の自動車時代の終わり

――筆者のクリストファー・ミムズはWSJハイテク担当コラムニスト

 クルマが「車輪の付いたスマートフォン」に進化しようとする今、アップルがあれこれと可能性を模索するのは当然のことだ。

 まず始まったのは、内燃機関から部品がはるかに少ない電気モーターへの移行だ。この変化を受けて、将来の自動運転に向けた2番目のシフトが進行中だ。

 自動車は1世紀もの間、エンジンやトランスミッション、ドライブシャフト、ブレーキなどが相互に連携する機械システムだった。その進化に伴い、機械を支援する電子センサーやプロセッサーが導入された。だが基本概念が変わることはなく、その結果、相互に会話できない何十種類、何百種類もの特化したマイクロチップが搭載されるようになった。今や自動車メーカーは電気モーターに加え、精緻なエンターテインメントシステムや車間距離制御装置(ACC)に注力する時代だ。すると全てを制御する中央コンピューターが必要になる――それを使って何もかも制御すればよい。

 ハードウエアレベルで言えば、より少ない半導体でより多くの機能を処理できるようになると考えられる。それは将来、車がいかなる機能を持つのか、自動車メーカーの収益モデルがどうなるのか、世界の自動車産業が今とは様変わりする可能性がある中で、誰が生き残り、繁栄するのかということに深く関わってくる。

 アップル社内の関係者で同社の計画について正確に語る者はいない。だが自動車分野の役割について同社は何年も考え続けてきた。多額の資金を投じて数百人のスタッフを採用したものの、優先順位が変わるとその役割を一部断念し、即座に同様のスキルを持つ別のエンジニアを採用。その後さらに多くのエンジニアを解雇した。全てはいまだ謎に包まれる最終ビジョンを実現するためだ。

 またアップルは最近、現代自動車を含む自動車メーカー各社に対し、製造面での業務提携の可能性を打診した。だが協議は失敗に終わった。アップルはいつものように、自分たちにしかできない何かに行き当たるまで、実験を続けているのかもしれない。

 「サプライチェーンの十分な反応からして、われわれはアップルが自動車のエンジニアリングや製造工程のあらゆる細部を調べていることを知った」。多くの自動車メーカーや部品メーカーと協力している多国籍企業の一部門キャップジェミニ・エンジニアリング・ジャーマニーの技術・イノベーション責任者ピーター・フィントル氏はこう話す。「だがアップルの作るものが車なのか、技術プラットフォームなのか、モビリティー(移動)サービスなのか、誰にも分からない」と続けた。

 真面目で保守的なイメージがあり、比較的利幅の薄い自動車や自動車部品の世界に、多くのIT(情報技術)企業が攻め込もうとしている。米半導体大手のインテルやエヌビディア、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)、インターネット検索大手の百度(バイドゥ)、それにアマゾン・ドット・コムやグーグル親会社のアルファベットなどだ。一方で、米フォード・モーターや米ゼネラル・モーターズ(GM)、トヨタ自動車、独ダイムラー、独フォルクスワーゲン(VW)といった伝統ある自動車メーカーに加え、自動車部品メーカーの独ボッシュや独ZF、カナダのマグナ・インターナショナルもIT企業に近い振る舞いをし始めた。

 基本的に、誰もがソフトウエアに重点を移し、そのために猛烈な勢いで人材を採用している。過去1年間にほぼ全ての主要自動車メーカーが、ソフトウエア開発者を大幅増員する計画を表明した。例えばVWは2019年3月、技術開発チームを2000人増やすと発表。同社ではすでに数千人のソフトウエア技術者が働いている。

 「ソフトウエアが世界をのみ込んでいる。次の標的はクルマだ」。トヨタ傘下のベンチャーキャピタル(VC)ファンド、トヨタAIベンチャーズのマネジングディレクターを務めるジム・アドラー氏はこう話す。

ハードからソフトへ

 最も複雑な自動車は200ものコンピューターを内蔵し、エンジンや自動ブレーキシステム(ABS)、空調、車載エンターテインメントなど全てのものを制御する能力がある。こう話すのは、自動車のソフトウエアと電子機器を専門とするマッキンゼーのパートナー、ヨハネス・ダイクマン氏だ。これらのコンピューターはさまざまなサプライヤーが製造し、固有のソフトウエアで動くことが多いため、自動車メーカーでさえほとんど触ることができない。

 モジュール方式はある程度まではうまく行く。例えばGMが「シボレー・マリブ」を製造する際、フロントガラスのワイパーがどうやって動作するのか知る必要はないだろう。だがダイクマン氏によると、用途を絞ったプロセッサーが広く搭載されたために、持続不可能な複雑さをもたらしたという。

 テスラが自動車業界を新たな方向に進ませるのに一役買っていることは想像に難くない。テスラは「モデルS」の発売以来、先駆者として数百台の小型コンピューターを少数の大きく強力なコンピューターに置き換える取り組みを進めたと、自動車用ソフトウエアの新興企業エイペックス・エーアイのジャン・ベッカー最高経営責任者(CEO)は話す。以前は専用マイクロチップが必要だったシステムが今や、別個のソフトウエアモジュールで動くようになった。

 だからこそ、テスラは無線経由のソフトウエア更新を通じて新機能を追加できるのだとベッカー氏は説明する。加速性能を高め、航続距離を伸ばし、自動運転システムを強化し、ウィンカーを出すたびに車載エンターテインメントシステムがおならの音を鳴らす機能を加える――。テスラはソフト更新だけでこれらを実現できると証明した。それはまさに、携帯端末にわれわれが期待するようになった継続的なソフト更新モデルとそっくりだ。

 自動車メーカーはこれに追随し、車全体のオペレーティングシステム(OS)の構築もしくは委託を急いでいる。この分野はまだ参入余地が広いとフィントル氏は指摘。半導体大手エヌビディアはOS「ドライブ」を投入し、VWとダイムラーは(テスラと同じく)独自に開発する計画を発表。グーグルはOS「アンドロイド・オート」を通じて自動車に一段と深く関与していく構えだ。今まで車載エンターテインメントとナビが中心だったが、フォードは最近、2023年までに中国以外で販売する全モデルのディスプレーにアンドロイドを搭載し――公開から間もない人気ピックアップトラックのEV版「F-150ライトニング」を含む――、車両から収集したデータをグーグルのツールで管理すると発表した。GMも同様に、電動ピックアップトラック「ハマーEV」にアンドロイドを搭載するという。

 そこでアップルは難しい決断を迫られる可能性がある。膨大なソフトウエアとチップ製造の専門知識を駆使し、高額入札する企業のために次世代プラットフォームを作るチャンスがある一方で、アップルはもともと他社が使う部品ではなく、自社ブランドの製品を作る傾向がある。そのうえ、自動車メーカーのサプライヤーになる戦略はすでに、インテル(傘下のモービルアイを通じて)やアルファベット(傘下のウェイモやアンドロイド・オートを通じて)、エヌビディアなどが着手している。

 数千台の自動車を製造・納品する(しかも安全な自動車を造る)には途方もない複雑さと出費が必要であり、数百万台ともなればなおさらだ。多くのIT企業が自力での製造を断念し、自動車メーカーと手を組むようになったのはそのためだ。デロイトの自動車調査責任者ライアン・ロビンソン氏はそう指摘する。

 アナリストは大手自動車メーカーがテスラを簡単に退けると踏んでいた。だがEVはハードウエアよりソフトウエアが問題だと分かってきた。自動車メーカーは今の自動車やドライバーが求めるソフトウエアにまだ不慣れだ。VWは昨年6月、開発に何年もかけたEVの旗艦モデルの発売を延期すると決めた。ソフトウエアの準備不足が理由だった。

アップルの登場

 「著名なフルーツ会社がゲームに参入するとしたら、業界最大のミステリーだ」とダイクマン氏は言う。

 アップルはすでにiPhone(アイフォーン)の車載ディスプレー向けインターフェース「CarPlay(カープレイ)」を運用する。だがそれはエンターテインメントやナビといった機能に限定され、真の自動車用OSが求める統合深化や機能とは無縁のものだ。アップルはスマートな自動車が必要とするようなマイクロチップやセンサーの設計に秀でた能力を持つが、現在は主にiPhoneやiPad(アイパッド)、Mac(マック)にしか使っていない。

アップルはiPhoneのインターフェース「CarPlay」を通じて多くの自動車用ディスプレーに登場する

PHOTO: RONALD MONTOYA/ASSOCIATED PRESS

 アップルはコメントの求めに応じなかった。

 アップルは、車全体のOSを構築した上で、自社の半導体で動作させることも可能だ。だがアップルはできる限り垂直統合し、ユーザー体験のあらゆる側面を制御することを目指している。そこで疑問が持ち上がる。アップルが初代iPhoneを発売した際に通信大手AT&Tを扱ったような方法で、あるいは音楽配信サービス「iTunes(アイチューンズ)」を始めた際に音楽レーベルを扱ったような方法で、自動車メーカーも扱われて構わないのか? 当時、アップルは形勢を逆転し、巨大市場とわれわれの生活の相当部分を一気に掌握した。

 今年2月、アップルと現代自動車の提携交渉は決裂した。もしかすると現代はアップルの生態系に吸収されることを懸念したのかもしれない。その直後、日産自動車はアップルとの協業に前向きな姿勢を示した。

 もし新しい自動車メーカーを一から立ち上げる仕事を単独で成し遂げるリソースを持ったIT企業がこの世にあるとすれば、それはアップルだ。だが同社の狙いがそこにあるという証拠はない。テスラが手本になるとしても、アップル経営陣が製造・試験・サービス構築に向けた苦難の道をあえて耐え忍ぶ理由が分からない。

 他の自動車メーカーの製品に頭脳を提供することは考えにくく、テスラなどのEV新興企業と真っ向勝負する気がないとすれば、アップルにはもう一つの選択肢が残されている。自動車業界が自動運転タクシーのサービス提供に向けて少しずつ前進する中で、自動運転EV用のソフトウエアやハードウエアの獲得・開発にアップルが固執することは、同社の長期的な野心を示す可能性がある。それは「アップルカー」ではなく、アップルの運営する「モビリティー企業」だと考えるのが、最も合理的ではないか。

 GM傘下のクルーズやアマゾン傘下のズークスなど、この分野を目指す企業は多いが、アリゾナ州でウェイモが限定的な実験を行っているのを除き、ロボットタクシーはまだ実現に至っていない。従ってアップルが完全に掌握できるものを作り出し、同時に日産のように苦境に立つ自動車メーカーが追加の収益源を得る可能性を秘めている。

 アップルや他の企業は、自らのブランドを冠した車両を設計して委託し、実際に製造した企業の痕跡は残さずに、自分たちのサービスの一環として運用できる、とダイクマン氏は話す。

 アップルは正確には電子機器メーカーではない。製造の全てを外部に委託し、その大半を鴻海(ホンハイ)精密工業傘下の富士康科技集団(フォックスコン・テクノロジー・グループ)が受注している。アップルは顧客を何より重視する企業として製品を開発し、フォックスコンなどが実際の生産を請け負う。アップルのビジョンを実現するためには深い専門的知識が必要になる。完全な自動運転は人々が予想するよりずっと困難なことが分かってきており、アップルは独自のサービスを開発するのに必要な時間を確保できるかもしれない。

 一方、アップルがEV開発に何十億ドル投じようが、製品を1つも発売せずに終わる可能性も十分ある。あるいは製品やサービスを提供しても、結果が出ないかもしれない。輸送手段はパソコンや携帯端末とは範囲も複雑さも全く異なるため、成功する唯一の道が、アップルが得意でない大規模な他社との協業であることも考えられる。

 トヨタの豊田章男社長は3月、アップルが消費者に自動車を提供するならば、40年かけて関与する覚悟が必要だと述べた。それはもっともな意見だ。目的が単に自動車を造るだけでなく、世界に14億台ある自動車の相当な部分を、完全自動運転で排出量ゼロの、根本から変革した交通システムに置き換えることであれば、なおさらだ。言い換えると、それはアップルがその一つをすでに実現している、1兆ドル規模の革命だ。

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